E-Stage Topiaプロデュース公演『PHANTOM of the SHOGIKAIKAN』で使用する、今回のために作っていただいたオリジナル詰将棋の作者さんに、詰将棋芝居や今回の詰将棋の見どころなどインタビューしました‼

このたびは素晴らしい詰将棋を作ってくださり、ありがとうございました!



いえいえ。こちらこそ選んでくださり、ありがとうございます。



なにしろこちらとしてもオリジナル募集は初の試みだったため「本当に作品が来るのか?」というところから不安だったので、めちゃめちゃ嬉しかったです。



こちらも面白い経験をさせていただきました。



というわけで、その面白かった点なども含めていろいろと伺っていきたいと思いますので、よろしくお願いします!



よろしくお願いします!
詰将棋芝居の印象について



馬屋原さんは過去の詰将棋芝居をご覧くださっていましたよね?(初演『将棋図巧・煙詰』、『魔法少女・最後の審判』@三栄町LIVESTAGE) そのときの印象やご感想を伺ってもいいですか。



まずは舞台というものを見慣れていないので、単純に声量の大きさなどすごい迫力で圧倒されました。とても良い声で「詰将棋」という言葉が発せられるたびに興奮したのを覚えています。



観ていただいた作品はどちらも40人程度のキャパの小さい劇場でしたから、距離の近さもあって余計にそう感じたかもしれませんね。



まず初めて観た『煙詰』ですが、詰将棋の進行と連動した脚本はよく練られているなと感じました。私が観た回では大盤でキャストの方が動かしていた将棋の流れにミスがあり、途中「あれ、おかしいぞ」とドキドキしていましたが、他のキャストさんがさりげなく直していたのを見てホッとしたとともに、とっさの対応力に感心しました。あれは練習で同じようなミスがあって対策していたんですか? それともそのキャストさんのアドリブ力で乗り越えたんですか?



どちらも、ですね。舞台の稽古は日数や時間をかけて何度も繰り返し行うものなので、練習中に指し間違えたりするとその都度止めて「そこ違うよ」と指摘したりします。それで、はじめは将棋を知らなかったキャストもだんだん覚えてくるんですよね。ただミスが起こる箇所はその時々によって違うので、そこはその時手が空いているキャストが直さなきゃいけないため、本人のアドリブ力ということになります。もちろんミスらないことが一番なんですけども(苦笑い)。そういう意味では、ストーリーと全然関係ないところでハラハラさせてしまってすみません。



いえいえ。それも生の舞台だからこその魅力のひとつだと思うので!



しかしこれ、実はボクも本番中はハラハラしながら観てるんですよ。「頼むからミスらないでくれ」って。人間がやることですし、ただでさえ出演者は将棋に触れ合った経験が少ない若い女優さんばかりだったりするので、毎回祈るような気持ちです(笑)



そうなんですね!(笑)



稽古中、みんなには「どうしようもなくミスったら暗転してそのままカーテンコール」って冗談で言ってます!



終わっちゃうじゃないですか(笑)。



『最後の審判』はいかがでしたか?



『煙詰』よりも手数が短いですし、繰り返し手順もあるので物語をどういう展開にするのか気になって観ていました。同じシーンや演技を繰り返しても退屈だと思いますので。そうしたらifの展開で変化手順を並べたりしていて、エレガントな表現方法だと感心しました。



エレガント! ありがとうございます‼



詰将棋は作意だけでなく、内包された変化や紛れの総体でひとつの作品となるので、そういった部分まで物語に反映されていたことが嬉しく思いました!
今回のオリジナル詰将棋募集と実際に作ってみた感想について



詰将棋パラダイスでのこの募集を知って、どう思いましたか?



第一感は「突飛なことをするなあ」と(笑)。



まあ、そうですよね(笑)。例えばどんなところが?



完成した詰将棋にタイトルをつけることは珍しくありませんが、タイトルを決めてから詰将棋を作ることはちょっと珍しいです。それが今回はタイトルというレベルでなく、詳細なストーリーがあって、それに符合する詰将棋を作るというのだから、これは今までにないぞと。



まあそうですよね。というか、詰将棋と物語が連動した舞台も他にありませんから!



しかし、私は誰もやらないことをやるのが信条なので、チャレンジ精神が刺激されました!



おおっ、素晴らしい。



加えて、長編は詰将棋作家としての主戦場でもあり、さらに言えば条件に沿った詰将棋を作るのも得意だと自負していますので、これは私のための企画だと思いました‼(笑)



で、実際に作ってみて、いかがでしたか? 募集要項にはガストン・ルルー『オペラ座の怪人』のあらすじをもとに結構細かくいろいろ要望を書いちゃいましたけど……。



はい。その『作成を希望するシーン』を元に全体の構成を練りました。



難しかったところやこだわり、完成した詰将棋の見どころなど、教えてください。(※超有名原作アリの作品かつ詰将棋パラダイス誌上で解答まで公開されているので、少々ネタバレありです)



特に難しかったのは、「クリスティーヌはエリックを哀れに思い」の箇所ですね。要項に「クリスティーヌに当たる駒が玉将(怪人)に近づいたり、ラウルに当たる駒に近づいたりを何度か繰り返すことで揺れ動く気持ちを表現できたら嬉しい」とありましたが、どんな詰将棋の手法で表現するかは悩みました。結局は馬の往復と龍ノコで実現しましたが、これが最善だったかどうかはわかりません。



いやいや、とても素敵に表現されていましたよ!



あとは詰将棋作家としての矜持もあり、詰将棋マニアにも納得してもらえるような作品にしたいという思いがありました。「ただ条件に当てはまるものを作っただけだよね」と思われるのは悔しいので。



どのあたりにその思いが込められているのでしょう?



「やけくそ中合」や「回収回避」を組み込んだことですね。どちらもマニアックな手筋なので。



「やけくそ中合」は選考の際、解説してもらったときに教えてもらって初めて知ったのですが、語感の良さで「絶対セリフに入れよう!」と思いました(笑)。



あと、最後はどうやってまとめるか迷いましたが、両王手になる手順を発見した瞬間、これしかないと思いましたね! 「最後はラウルとクリスティーヌが協力する形で詰みとする」というご要望にもピッタリだと!



なるほど。この詰ませ方は私も物語にドンピシャだと感じて決定打となった箇所でもあるので、見どころですね!
できあがった脚本について



稽古開始に先立って、馬屋原さんには完成した脚本を送らせていただきました。ご自身の詰将棋作品が舞台脚本になるというのはおそらく初めての経験だと思うのですが、いざ読んでみていかがでした?



またとない体験なのでとても感激しました!



これから稽古を重ね、実際にキャストが舞台に立って喋って動き回るし駒を動かすわけですが、脚本の段階で気になるシーンや登場人物などはありますか?



注目したいのはやはり終盤、全軍躍動のシーンですね。そこにいるすべての駒に出番があるように詰将棋を作ったので、それが舞台ではどのようになるのか、すごく期待しています。気になる登場人物で言えば本作のヒロインであるところの角行ですね。彼女の心の繊細な揺れ動きがどのように表現されるのかは興味津々です。



今回は音楽劇となっております。



そうですね。脚本だけではわからない部分なので劇中歌も楽しみです。個人的には『金将の例の歌』が気になります。



あはは、『例の歌』ですね!



オマージュ元の歌が大好きなので、楽しみです!



他にはなにかありますか?



さっき触れた「回収回避」の部分も脚本で触れていただけてたら最高でしたが、さすがにそれは望みすぎですね!



いやぁ、それはごめんなさい! これまでやってきた詰将棋芝居でもそうですが、できるだけ作家さんの趣向は組み込みたいんです。でも役の設定やストーリー展開的に取捨選択は必要で、今回も話の筋が逸れちゃうのでどーしても脚本に反映できなかった!



いえいえ(笑)。



将棋がわからない方のために「回収回避」について説明をお願いします。



作中で金を捨てて香車に変えておく手があるんですが、それが何十手もあとに効果が現れるんですね。でも変化に隠してあるから表面をなぞるだけではわからないですし、無理やり脚本に組み込んでもほとんどの方が理解できないでしょう(笑)。



そこらへんのバランスが難しいんです、詰将棋芝居(笑)。
作家としての思い



今回、ベースとして『オペラ座の怪人』はあるものの、実はオリジナル要素として裏テーマに「作家の孤独性や思い」みたいなものも物語に入れて書いてみました。馬屋原さんも詰将棋作家として活動されているので、創作する人間という意味で脚本家の私とも共通するようなところがもしかしたらあるんじゃないかと思うんですけれども。



どうでしょう。ジャンルが全然違うのでわかりませんが。



たとえば普段創作するうえでこだわっている点や、お気に入りのテーマってありますか?



お気に入りのテーマは「馬ノコ」です。去年の詰将棋芝居『将棋無双・第30番 〜神局のヴァンパイア〜』にも出てくる、馬がノコギリ状にギザギザ動く趣向ですね。苗字にも「馬」がついていますし、自分のハンドルネームにもしています。



ですよね! ちなみに『将棋無双・第30番』には馬ノコ趣向が2回登場するので、芝居では同じ馬ノコでも絶対シーンとしては違う表現にするぞってこだわりました。



私が創作でこだわっているのは、やはり自分にしかできないオリジナリティーの溢れる作品を作りたいという点ですね。ただ、そこにこだわりすぎるとマニアックになりすぎて他の人にはあまり評価されないこともあります。自分の好きなものを作るか、他人に評価されるものを作るか。これは大きなジレンマだと思います。



いやぁ、これは結構共通するところなので共感しかないです!



やっぱり脚本でもそういうジレンマってありますか?



そもそも詰将棋芝居なんてもの自体がマニアックですからね! でも、だからこそ好きなものを書くことがオリジナリティーにも繋がるんだと思ってやってます。それに、人からの評価を気にしすぎると筆が進まないんですよ。なので私は、書いているときはできるだけ人目を気にせず自分の好きなものを書くようにしています。演劇の評価って観客動員数とか感想とか拍手の量とか、それこそなんかの賞とか、いろいろありますけど、それは結果として最後に出るものなので。発表する前に気にしてもしょーがないところはあります(笑)。



なるほど。



もちろん漫画や小説など、発表する媒体にもよりますけどね。演劇では特にその思いが強いです。極端な話、「役者にこんなドギツイ下ネタ言わせたらお客さんドン引きするかな」とか考えて書くのを躊躇してたら、どんどん作品が丸くなっちゃいますから(あんまりそういうのは書かないですけど笑)。『一般ウケを狙った結果毒にも薬にもならない芝居を作るよりは、誰かに刺さればいいつもりで人によっては毒になるかもしれないけど薬にもなりうる芝居』を作りたいですね。……って、これ最後のほう私へのインタビューになっちゃってません?



(笑)
詰将棋芝居の今後の展望について



さて、2020年からやり始めた詰将棋芝居はなんだかんだそれからずっとやってるし、できればこれからも続けていきたいわけなんですけど。詰将棋芝居の今後の展望や期待することなどはありますか?



抽象的な回答で申し訳ないんですが、演劇と詰将棋、両方の魅力がより広く伝わっていくものになるよう期待しています。



ですね! 私もそう思っています。



具体的な話で言うと、田島秀男さんという異次元の詰将棋作家がいまして。彼の作品を演劇にしたらどうなるか気になりますね。(田島秀男さんの詰将棋 http://toybox.tea-nifty.com/memo/2007/03/post_324a.html)



ほうほう。調べてみます。



もっとも数百手超えの超長編がほとんどなのですが。



上演時間が長くなりそう……(笑)。



ですね(笑)。



あと……出演者が手順を覚えられますかね……?



どうでしょう(笑)。
馬屋原さんの作品集について



ところで、馬屋原さんは作品集を出されてますよね?



はい。2024年7月にマイナビ出版から私の詰将棋作品集『ガチャポン』を出させていただきました。(https://book.mynavi.jp/shogi/products/detail/id=144137)



せっかくなのでそちらの宣伝をどうぞ!



可愛い表紙とは裏腹に中身は超マニアックなので実はあまりおススメできません(笑)。



超上級者向けということですね(笑)。



なので、演劇を通じて詰将棋に興味を持ったというかたは私の他に数名の詰将棋作家の作品も載っている『ランダム詰将棋』がおススメです!(https://book.mynavi.jp/shogi/products/detail/id=122363)一手詰もあるのでとっつきやすいのではないかと思います!



というわけで、いろいろと伺わせていただきました。ありがとうございます!



いえいえ、こちらこそありがとうございます!



きっと馬屋原さんは今後もすごい詰将棋作品を生み出していくのだろうと思います。私も馬屋原さんが作ってくださった詰将棋に恥じないような舞台にしたいと思っておりますので、期待していてください!



本番、劇場で観るのを楽しみにしています!
今回、馬屋原さんは稽古開始前にキャストが揃う顔合わせにもご出席くださり、脚本の読み合わせも聞いていただきました。積極的でサービス精神旺盛なお人柄もあって盛り上がり、記事も長くなりましたが、最後まで読んでくださったかたもありがとうございました!
というわけで、馬屋原さん、引き続きどうぞよろしくお願いします‼