プロe棋士・将棋系Vtuberさんと2年連続看寿賞の詰将棋作家さんに突撃インタビュー‼(後編)

プロeスポーツ棋士Vtuberとして幅広く活動していらっしゃる鷺宮ローランさんと、2年連続看寿賞受賞の詰将棋作家・岸本裕真さんにインタビュー。前編では詰将棋の作り方などについてお話を伺いました。後半では、『詰将棋と物語の接点』について、さらに突っ込んだお話を伺っていきたいと思います! それでは、詰将棋×芝居の異色コラボインタビュー、後編に突入~‼


太田

さて、前回から引き続き、上記のお二方にお話を伺って参りましょう! よろしくお願いします‼

鷺宮ローラン

お願いします!

岸本

お願いします!

『詰将棋が持つ物語性』について

太田

ところで先程「詰将棋作品に物語性を見出すのはどちらかというと受け手側」という話が出て、一応納得はしたんですけど。いや、でも岸本さんの作品集に収録されている詰将棋もタイトルを見たら「ん?」っていうものをいくつか見つけまして……。

鷺宮ローラン

ははは(笑)。出ましたね、この話題。

太田

『SBR』っていうタイトルの詰将棋、掲載されていますよね。敵も味方も馬しか動かない短編詰将棋作品なんですけど、それでピンときまして。これって『スティール・ボール・ラン』じゃないですか? 『ジョジョの奇妙な冒険(荒木飛呂彦先生/集英社)』第7部の。

岸本

そうですね、ジョジョは大好きです! その作品集には『Weather Report(ジョジョ第6部に登場する、『スタンド』と呼ばれる能力名)』も掲載されています!

鷺宮ローラン

他にも岸本さん、ジョジョ関連のタイトルの作品、結構ありますよね(笑)!

太田

やっぱりそうだったんですね! てことは、実は詰将棋作家さんとして、岸本さんも詰将棋と物語の接点、メチャメチャ意識してるじゃないですか(笑)!

岸本

そういう意味ではそうだと言えるかもしれません! タイトルは作品の印象を決める大切なものだと思っているので、そこは結構こだわるポイントですね。ただやっぱり僕の場合は詰将棋的な「狙い」が最優先で「テーマに忠実に」という創作スタイルなので。物語を作っているという感覚とはちょっと違うんじゃないのかなと。

鷺宮ローラン

それで言うと、私は自分の配信で、リスナーさんの対局の一場面を切り取って、その駒の配置などからショートショートの物語を指したご本人に作っていただき、私が読み上げるという企画をやっていたことがありまして。

太田

うおお、なんか似てるようなことやってる先駆者がいた! 前回、将棋ウォーズの石井さんに詰将棋芝居を「発明」と言ってもらって浮かれていたのが恥ずかしい‼

鷺宮ローラン

いやいや、そんなことは(笑)。私の場合、指し将棋って対局者同士の思惑とかも盤面に出るので、駒の動きやその時の配置にストーリーを見出せるんじゃないかと思ってやり始めたんですが、詰将棋の場合、玉が詰むのは決まっているパズルなので、それで物語を作ろうっていう発想自体は考えたことも無くて。

太田

完全に僕とは真逆ですね。指し将棋って僕レベルの棋力だと、その時その時の指した手の意味とか伏線とか、難解すぎてわからない(笑)。だから解と手順の意図が明確な詰将棋のほうが僕は舞台化しやすかったんです。

鷺宮ローラン

でも、「似たようなことを考えている人がいるな」って興味を持って詰将棋芝居を拝見させていただくようになったので、嬉しく思いました。

太田

それは良かったです!

鷺宮ローラン

将棋は指すだけじゃなくて、もっと違った楽しみ方もあっていいんじゃないかという思いが発端にあって、Vtuber活動も含め、そこに至ったというわけで。なので、そのあたりの思想というか、将棋の新しい楽しみ方を提案する表現方法については、ホントに共通しているところだと思います!

詰将棋界と演劇界が共通して抱えている課題について

太田

「将棋の新しい楽しみ方を提案する」という話題が出ましたが。例えばプロ棋士や、それこそ将棋連盟の方々などは『将棋の普及』も活動の中の目的のひとつとして、あると思います。そういうのって、将棋ファンのかたも考えたりするものなんですか?

鷺宮ローラン

これは……考えてる人と考えない人で大きく分かれていると思います。ただ、私の場合はVtuber活動をしているひとつにそうした目的もあったりはしますね。将棋を指すっていう入口だけだと、ある程度知っている人じゃないと楽しめなかったりして、間口が狭いので。「見るだけでも楽しい」とか「物語を見出す」とか、そういういろんな入口も増やしていくことで、(私の好きな)将棋という文化が総合的に盛り上がっていくんじゃないかなと。

太田

なるほど。一方で、『詰将棋』に絞るとどうなんでしょう。

鷺宮ローラン

詰将棋はさらに間口が狭いんですよね~(笑)。そもそも将棋を知っているという大前提がある上で詰将棋に入るので、最初から詰将棋に出会う人っていうのはあまりいないと思います。

太田

そうですよね。なんだかこのあたりの話って、演劇業界(特に小劇場)が長年抱えている課題であるところの、『新規観劇ファン獲得難しい問題』とも共通しているなと思いました。だからこうして詰将棋芝居を作ることで、将棋界の方々に「舞台どうっすか⁉」と飛び込み営業してみてるっていう(笑)。ただそこは、演劇ファンのかたにも「詰将棋どうっすか⁉」となっているので、どちらの業界にもwin-winなものにできていたらいいなと思っています。

詰将棋芝居の可能性についてと、アートとしての詰将棋の価値

太田

ところで、『間口』の話題の延長になるんですけど。詰将棋を「解いてなんぼ」のパズルとして見る以外にも、例えば看寿や宗看のような古典詰将棋だったり、もちろん現代の詰将棋もそうですけど、『作品』としての完成度や美しさのようなものって、『芸術』として鑑賞できる側面も持ち合わせているとは思うんです。でも、それをアートとして感動を得るにも、ある程度将棋の知識を持っている人しか理解ができないのはもったいないなーと思っているんですが、そこらへん、岸本さんはどう思っていらっしゃいますか?

岸本

まあ、詰将棋作家は「将棋がわかる人たちの世界だけで楽しんでいればいい」と思っているかたも多いんじゃないかとは思います(笑)。ただ僕の場合「詰将棋は解いてなんぼ」だけの価値観というのは覆していきたいという思いがあって。最初の図と、解答、詰め上がり図を見て楽しむようなことがもっと広まってもいいんじゃないかと。

太田

それこそ、岸本さんは2年連続で看寿賞受賞という輝かしい実績をお持ちの方で、将棋の世界の人々の間ではそのすごさは十分伝わっていると思うんですが、それをもっと多くの、将棋を知らないような人にも知られたい、「すげー‼」って思われたい、みたいな欲求ってあったりしませんか?

岸本

正直、作り手としての承認欲求という意味では、ありますけど(笑)。もちろん自分の作品以外でもすごい詰将棋作品はたくさんあるので、そういうのがもっと広く知っていただけたらいいなという思いは常々持っていますね。

鷺宮ローラン

そこで問題となるのが、難しい詰将棋って、もちろん「鑑賞するだけでもいいよ」っていう楽しみ方はあるんです。で、盤に並べてみることはできるんですけど、理解するためには解説を読まなきゃいけない。だけど、その解説に書いてあることがまた難しいんですよね。変化手順とかにも言及されていたり、しかもそれが結構な長文だったりして読みにくいわけです(笑)。でも、そこを埋めてくれるのは案外『物語』なんじゃないかと思っていて。

太田

そこの架け橋に詰将棋芝居やローランさんが行っている活動が担える可能性は、僕も強く感じています‼

こういうストーリーを作りたいんだけど、そういう詰将棋ってできる?

太田

さて、最後の話題となるんですが。詰将棋芝居は今後も作り続けていきたいなと思っているんですけど。さっき、詰将棋作家さんは初めにやりたい「テーマ」があって、それに沿って詰将棋を創作すると仰っていました。例えばなんですけど、この「テーマ」って、「こういう物語にしたいんですけど、そういう展開の詰将棋って作れます?」っていうオーダーでもできたりするものですか?

鷺宮ローラン

「詰将棋から物語を見出す」の逆で「物語から詰将棋を生み出す」ってことですね。

岸本

たぶんできるし、そういうのが好きな詰将棋作家さんもいると思います(笑)。

太田

おおっ! じゃあ「金田一耕助みたいな探偵役の駒がいて、犯人であるところの玉将を推理で追い詰めて、でもその犯人(玉将X)は詰むまで、最後まで盤上に生き残る登場人物の誰だかわからないんだけど、途中で歩とか香車とかは殺されてて……」みたいなことも⁉

鷺宮ローラン

「途中で手掛かりとなる何らかの駒を取ったりしつつ」みたいな(笑)

岸本

いいですね。面白そうです!

太田

(これは募集をかけたら集まるかもしれない……看寿賞とは別の詰将棋作家さんの新たなタイトル……「あなたの詰将棋を芝居にします」みたいな、『太田賞』……いつかやってみたい‼)

太田

というわけで、今回はたくさんお話を聞かせていただき、ありがとうございました!

鷺宮ローラン

こちらこそありがとうございました。

岸本

こちらこそありがとうございました。

太田

お話の中では、岸本さんの今後の創作の構想なども伺わせていただきましたが、ホントにすごいもので、それも完成し発表されるのを楽しみにしております‼ あと、今度行われる公演『将棋無双・第30番 ~神局のヴァンパイア~』もよかったら観てみてください‼

鷺宮ローラン

もちろんです!

岸本

もちろんです!


今回、ホントたくさんお話できたので、記事も前後編の長いものとなりましたが、すごく楽しかったです。読んでくださったかたも、お付き合いくださりありがとうございました。というわけで、ローランさん、岸本さん、これからもどうぞよろしくお願いします‼


鷺宮ローラン【プロe棋士Vtuber】プロゲーマー
将棋世界 2024年4月号(付録 2年連続の看寿賞!「岸本裕真 詰将棋作品集」)

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