プロe棋士・将棋系Vtuberさんと2年連続看寿賞の詰将棋作家さんに突撃インタビュー‼(前編)

プロeスポーツ棋士Vtuberとして幅広く活動していらっしゃる鷺宮ローランさんと、2年連続看寿賞受賞の詰将棋作家・岸本裕真さんに、主に『詰将棋が持つ物語性』についてインタビューしました‼


太田

このたびは、突然のzoom飲み会のお誘いに応じてくださり、まことにありがとうございます!

鷺宮ローラン

zoom飲み会っていう響きがもはや少し懐かしいですね(笑)。よろしくお願いします。

岸本

よろしくお願いします。

太田

ローランさんは以前(初演『将棋図巧・煙詰 ~そして誰もいなくなった~』)から僕の詰将棋芝居を観てくださっており、ご自身の配信でも嬉しいご感想をいただいてまして。

鷺宮ローラン

ですね。それから毎回、配信で拝見させていただいてます!

太田

ありがとうございます! 今回、そのご縁でお誘いしてみたところ、なんと岸本さんをご紹介いただき~という流れです。いや、びっくりしました。最近たまたま手にした雑誌『将棋世界4月号』の付録に岸本さんの詰将棋作品集が入っていて。すぐにそのかたとお話できるとは!

岸本

手に取っていただき、ありがとうございます。

太田

今回はそんな岸本さんの詰将棋作品にも触れながら、詰将棋と物語との接点などを中心にお話を伺えたらと思っています‼ というわけで、乾杯~‼

詰将棋作家さんはどうやって詰将棋作品を作ってる?

太田

ところで先日、『将棋ウォーズ』Pの石井さんとお話しする機会がありまして。指し将棋をする人は「どうやって相手に勝つか」が軸にあるので、棋譜と物語の接点なんてこと考えもしないんじゃないかと仰っていました。(そちらのインタビュー記事はコチラ )

鷺宮ローラン

ああ~、まあ、そうですよね。そうかもしれません。(←でもこの後、それを覆すようなローランさんの活動が発覚する!)

太田

でも、詰将棋作家さんは案外そういうことを考えていたりするんじゃないかと思ったんです。『ミクロコスモス(1525手にも及ぶ超長編詰将棋作品。看寿賞作)』の作者さんが、盤上に「コロナ」って配置して、どんどん消していく煙詰作品を発表されていたのを動画で見たんですが、あれなんか完全に物語ですよね!

鷺宮ローラン

詰将棋作家さんの場合は初めに「なにをしたいか」っていう狙い、テーマを決めてから作品づくりをするから、ある意味そういうところはあるかもしれませんよね。

太田

なるほど。岸本さんの作品『幻日環(令和4年度看寿賞受賞作)』は「7種の合い駒を3回ずつ使う」ことをテーマにされていましたね。あんなとんでもない作品、どうやって作ったんですか?

岸本

『幻日環』の場合、まずは「やりたいこと」、テーマの部分を作って、あとは前後をつけ足していく、というような作り方ですね。「7種の合い駒を3回ずつ使う」に関しては、これまで「2回ずつ」の作品があったので、「3回ずつ」もできるんじゃないか、それに挑戦してみようっていう。『三鈷峰(令和3年度看寿賞作)』のような煙詰作品とかだと詰め上がりから逆算して作っていったりしますが。なので『幻日環』はテーマに関わる真ん中の部分から作りました。

鷺宮ローラン

すごい(笑)。

太田

芝居の脚本で例えると、まずやりたいシーンだけ書いて、後からそれらを結び付けるようなイメージでしょうか。僕は普段そういう書き方をしないのでイメージしづらいですけど……。物語を作るというよりは、結構システマチックな印象ですね。

岸本

そうかもしれません。

太田

そういえば、岸本さんにも事前に『将棋図巧・煙詰 ~そして誰もいなくなった~』の動画をお送りして観ていただいたんですが、ご感想をいただけますか?

岸本

伊藤看寿の煙詰をどうお芝居のストーリーにするのかと思いながら興味深く拝見させていただきましたが、「こういう解釈があるのか」と思って、とても面白かったです。

太田

やっぱり看寿って、すごいんですか?

岸本

すごいです! 現代における『煙詰』とか『裸玉』とか、そういう詰将棋のジャンルとして定着しているものをおそらく最初に作った人なので。

太田

それはすごいですね! 詰将棋界の手塚治虫先生みたいな感じでしょうか。『漫画の神様』と『詰将棋の神様』ってことで、この解釈が僕の中で一番しっくりきたんですけど。

岸本

そんな感じかもしれないです。

太田

詰将棋作家さん的に、詰将棋芝居を観て、駒の動きと芝居の流れでストーリーやキャラ的な解釈の不一致みたいなのってありませんでした?

岸本

詰将棋自体にあまり物語的解釈を求めてないので(笑)。そういうふうに詰将棋とお芝居を結び付けるんだと興味深く思いながら純粋に楽しみました‼

鷺宮ローラン

ということは、詰将棋作品に物語性を見出すのはどちらかというと作り手側ではなく受け手側なのかもしれませんね。

太田

じゃあ僕は良いお客さんだ(笑)。

鷺宮ローラン

(笑)。

岸本

(笑)。

詰将棋作家さん的に『伊藤宗看』の評価って?

太田

では、今度の新作『将棋無双・第30番 ~神局のヴァンパイア~』に関わるお話を伺いたいと思います。実は今回、この詰将棋を選んだのは「前は『図巧』から選んだから、今度は『無双』から良いのがあればやってみよう」くらいの気持ちで探して、「なんだこれは!」ってなったからなんですけど。詰将棋作家さん的には、伊藤宗看(『将棋無双』の作者)の評価ってどんな感じなんですか?

岸本

『将棋無双』は不完全作(詰将棋の問題として不備があるものや、成立していないもの)も多いので、個人的に宗看は「そうでもないんじゃないか」と思っていたんですけど、今回このお話をいただいて改めて調べてみたら、すごく良いところがたくさん見つかってきて。(時代的に看寿より先の)宗看が詰将棋における様々な道筋を作ってきたと考えると、実は看寿よりもすごいんじゃないかと思うようになりました。

太田

なるほど、先駆者的なポジションなわけですね。ローランさんは、宗看や『無双』の第30番についてなにかイメージはありますか?

鷺宮ローラン

『無双』の第30番はすごい名局だという記憶があって、改めて並べてみて「ああー、これこれ」となって思い出して。進み方や詰め上がり図(敵方の玉を詰んだ時の盤上の駒の配置)を見て「ああ、だからヴァンパイアね!」って納得がいきました。

太田

僕は漫画やアニメとかのオタクなので、こういう印象的な詰将棋を見ると、まずこれまで読んだ漫画、見てきたアニメのストーリーを思い出したりするんです。で、今回は平野耕太先生の『ヘルシング(ヤングキング/少年画報社)』と真っ先に結びついたんですよね(笑)。

岸本

その発想が面白いです!

太田

ちなみにこの『無双』の第30番の見どころについて、まず挙げられるのがその詰め上がり図と、あとは途中に登場する『馬鋸(うまのこ)趣向』だと思うんですが。詰将棋作家さん的に、他になにかあったりします?

岸本

これ、実は話すかもしれないと思ってメチャクチャ研究してきたんですけど(笑)。

太田

さすが、将棋界隈のかたは読みが鋭い!

岸本

例えば、真っ先に2二の金を処理しておかないと、40手ほど先で1二歩が取れなくて、しかもその歩を使うのは87手目だったりとか。そういう、序盤に全体のキーポイントとなる伏線が張られているところは、ひとつ見どころですよね。

太田

おおー、伏線!(物語との接点っぽいワードが出てきた!)

岸本

あと、5一桂と5三の成桂について、詰将棋的にはずっと「いらないんじゃないか?」と思っていたんですけど。よくよく検討してみると、これがあることによって序盤の伏線が成立しているということと、後々の馬鋸を引き出すことがわかってきまして。そういうところは面白いなと思いました。

太田

僕はてっきり詰め上がり図を美しくするためだけに配置されているんだと思っていたので驚きです!

岸本

僕もそうで、あの成桂って金将でも他の成った駒でも良いはずなんです。むしろ現代の詰将棋的な価値観だと、それこそ『と金』とかを使ったほうが作品としての評価が高かったりするんですが、そこを敢えて成桂にしているところに宗看のこだわりのようなものが感じられて。というのも、指し将棋的な視点で考えると2九や8九(指し将棋における初期位置)の桂馬がどんどん前進していくと5三で成ることができるので、この詰将棋の配置を作る上でのストーリーのようなものが見えますし、効率的だなと。

太田

なるほど。宗看がすごいのはわかりましたが、それを分析して噛み砕いた説明をしてくださる岸本さんもすごいです‼


というわけで、ここまでお二方には大変興味深いお話をしていただいておりますが、ちょっと記事としては長くなりそうですので、一旦ここで区切らせていただき、続きは後編に持ち越しとさせていただきたいと思います!
次回の更新は来週となります。「詰将棋と物語の接点」について、さらに突っ込んだ内容となっておりますので、そちらもどうぞお楽しみに‼


鷺宮ローラン【プロe棋士Vtuber】プロゲーマー
将棋世界 2024年4月号(付録 2年連続の看寿賞!「岸本裕真 詰将棋作品集」)

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